脳と心理と、その使い方

ただ繰り返し目にするだけで、人はそれを好きになる

単純接触効果(ザイアンス効果)

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一言でいうと

意味のない図形や、見慣れない文字、知らない顔。それらを、ただ何度も見せられたというだけで、人はそれらをより好ましく感じるようになった。中身の良し悪しではなく、接触の回数が、好感を押し上げる。馴染みそのものが、好きの正体の一部だった。

論文が実際に言っていること

著者は、複数の実験で同じ効果を示した。被験者に、漢字のような記号、架空の単語、顔写真などを見せる。あるものは一度だけ、あるものは何度も。提示の回数だけを変える。そのうえで、それぞれをどれくらい好ましく感じるかを評価させる。

結果は一貫していた。提示された回数が多いものほど、好意的に評価された。意味を教えたわけでも、良い経験と結びつけたわけでもない。ただ、目にした回数が多い。それだけで、好感が上がる。これを「単純接触効果(mere exposure effect)」と呼ぶ。

効果は、対象の種類を問わず現れた。図形でも、言葉でも、人の顔でも。しかも、増え方には規則性があり、接触回数が増えるほど好感は上がるが、その伸びはだんだん緩やかになる。

後の研究では、さらに不穏なことも分かる。この効果は、対象を意識的に「見た」と覚えていなくても起きる。ごく短時間、気づかないうちに提示されただけでも、後の好感が上がる。理由を説明できないまま、なんとなく好き、という感覚が、接触回数だけで作られていた。

だから、どう生きるか

「なんとなく好き/正しい気がする」を、接触回数と切り分ける。

これがこの研究の芯だ。ある商品、ある主張、ある人に対する「なんとなく良い感じ」は、その中身の評価とは限らない。ただ何度も目にしただけで生まれた馴染みかもしれない。だから、好感や賛同が理由をうまく説明できないとき、一度疑う。「自分はこれを吟味して良いと思ったのか、それとも、何度も見かけたから馴染んだだけなのか」。馴染みは、正しさでも品質でもない。

繰り返し触れるものを、意識的に選ぶ。

単純接触が働くなら、日常的に何に触れているかが、そのまま好みを形づくる。惰性で流れてくるものに接し続ければ、それらへの好感が知らぬ間に育つ。逆に、身につけたい価値観や、好きになりたい対象があるなら、意図的に繰り返し触れる環境を作ると、馴染みが好みを後押しする。何に接触するかは、放っておくと環境任せになる。そこを自分で選ぶ。

AIとアルゴリズムは、単純接触を大量生産する装置だ。

いまの文脈では、ここが重い。おすすめ、リマインド、フィード——現代の情報環境は、特定の対象や主張への接触回数を、桁違いに増やす。この研究からすれば、それは中身の説得を経ずに、馴染みだけで好感を育てることを意味する。何度も表示されたものを「良いもの」と感じ始めたら、それは吟味の結果か、単なる露出回数の産物か。繰り返し差し出されるものほど、好意の出どころを疑う。

ここからは僕の飛躍だ

単純接触効果は頑健だが、万能ではない。最初から強い嫌悪を持つ対象では、繰り返し接触がかえって嫌悪を強めることもある。効果の大きさは、対象や文脈で変わる。

「アルゴリズムが好みを作る」は、この効果を今の情報環境に延ばした僕の解釈で、1968年のこの論文が述べていることではない。

それでも、ただ繰り返し接するだけで好感が上がる、しかも意識に上らなくても起きる、という中核は、多くの追試で確かめられた。自分の「好き」や「良い気がする」を、欲しがりと満足が別物であるように、接触回数の産物ではないかと切り分けてみること。それがこの一本の使いどころだと思う。

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