脳と心理と、その使い方

検索した直後、人は自分が賢くなったと錯覚する

インターネットと、知識の所在の取り違え

一言でいうと

インターネットで何かを調べた直後、人はまったく無関係な話題についてまで 「自分は説明できる」と感じるようになる。 外にある知識と、自分の頭の中にある知識の境目が、検索によって曖昧になるからだ。 道具が賢くなるほど、自分が賢くなったと感じる。 そして感じるだけで、実際には何も増えていない。

論文が実際に言っていること

フィッシャー、ゴドゥ、カイルによる9つの実験だ。基本の手続きは共通している。

参加者を2群に分ける。片方には「ファスナーはどう動くのか」といった説明を インターネットで検索して答えさせる。もう片方には、 同じ内容の説明文を渡すか、検索なしで答えさせる。

そのあと、まったく別の分野の質問を出す。 「竜巻はなぜ起きるのか」「なぜ月には満ち欠けがあるのか」。 そして質問には答えさせず、 「これについて、自分はどれくらい詳しく説明できると思うか」を7段階で自己評価させる。

結果は一貫していた。検索した群のほうが、自己評価が高かった。 検索した内容とは関係のない質問に対してもだ。

著者たちは、この効果が別の説明では消えないことを丁寧に潰している。

  • 検索が下手で失敗した場合(答えが見つからなかった条件)でも、効果は残った
  • 検索エンジンを使わず、同じ情報をそのまま読ませた場合には、効果は小さかった
  • 検索結果へのリンクを渡しても、自分で検索する行為があるほうが強かった

さらに最後の実験では、自己評価だけでなく脳の画像を選ばせるという課題を使った。 「説明しているときの自分の脳は、どれくらい活動していると思うか」を、 活動量の異なる脳画像から選ばせる。検索した群は、より活発な画像を選んだ。 自己評価の言葉づかいの問題ではなく、内側にあるという感覚そのものが変わっている。

これはグーグル効果の裏返しにあたる。 あちらは「あとで調べられると分かると覚えなくなる」という話だった。 こちらは「調べられる状態にあると、すでに知っていると感じる」という話だ。

だから、どう生きるか

1. 「分かった」と感じた直後に、一度だけ手を止める。 検索やAIで答えを得た直後は、理解の自己評価がいちばん膨らんでいる時点だ。 そこで判断を下すと、確認の手間を省いてしまう。 説明深度の錯覚と同じ対処が効く—— 画面を閉じて、口に出して説明してみる。

2. 知識の所在を、意識的に分けて記録する。 「調べれば分かること」と「自分が説明できること」を、 同じ扱いにしない。会議で発言する前、人に教える前、判断する前に、 どちらの棚から出しているのかを確かめる。

3. 検索して満足した項目こそ、あとで想起練習に回す。 検索は入り口としては優秀だが、 定着を作っているのは思い出す動作のほうだ。 調べた内容は、その日のうちに何も見ずに書き出す。 書けなければ、それは自分の中に無い。

4. 他人の自信の根拠を、一度疑う。 検索した直後の人は、自信が上がっている。 その自信は理解の量ではなく、アクセスの容易さを反映しているかもしれない。 能力が低い人ほど自己評価が高いという話と合わせると、 自信は判断材料としてかなり弱い。

ここからは僕の飛躍だ

ここからは僕の解釈だ。この研究が2015年のものだという点が、いま読むと重い。 検索エンジンでこれだけの錯覚が起きるなら、 対話形式で説明まで返してくる道具では、もっと強く起きるはずだ。 検索は「探す」という労力が残っていた。 いまはその労力すら消え、しかも返ってくるのは自分の質問に合わせて書かれた文章だ。 自分の言葉に近いほど、自分が考えたことのように感じられる。

僕が実務的にやっているのは、出力を自分の言葉で書き直す工程を1つ挟むことだ。 コピーして貼るのではなく、要点を自分で言い直してから使う。 遅くなるが、この遅さが「所在の確認」になっている。 AI時代に脳がやることを考えると、 外注していい工程と、外注すると自分が痩せる工程の境目は、 だいたいこの「言い直せるか」で引ける気がしている。

もうひとつ。この錯覚は、悪いことばかりでもないと思っている。 自分の外に信頼できる知識があると感じられることは、行動を起こす助けにもなる。 問題は錯覚そのものではなく、錯覚したまま判断を下すことのほうだ。 だから対策も「検索するな」ではなく「判断の前に一度確かめろ」になる。

研究の限界も書いておく。参加者は主にオンラインで募集した成人で、 測っているのは自己評価であって、実際の説明の質そのものではない。 (一部の実験では実際に説明もさせているが、中心は自己評価だ。) 効果量は中程度で、9つの実験が同じ研究室から出ている点も留意がいる。 同じ研究室の連続した実験は、 分析の自由度が積み上がりやすい。 とはいえ現象自体は説明深度の錯覚グーグル効果と整合的で、 方向としては信頼していいと考えている。

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