脳と心理と、その使い方

勉強法10個を効果で格付けしたら、人気のあるものが下位だった

効果のある学習法と、無い学習法の格付け

一言でいうと

学生がよく使う勉強法10個を集めて、どれだけ証拠があるかで格付けした総説だ。 結果は身も蓋もない。効果が高いと言えるのは2つだけ——想起練習と分散学習。 そして学生にいちばん人気のある下線引きと再読は、最下位だった。 うまくいく方法は安上がりで地味であり、人気のある方法はやった気持ちだけが残る。

論文が実際に言っていること

ダンロスキーらは、10種類の学習法について蓄積された研究を洗い直し、 4つの基準で使い勝手を評価した。どんな教材で効くか、どんな学習者に効くか、 どんなテストで効果が出るか、実際の教室で実行できるか。 その上で、高・中・低の3段階で格付けした。

効果が高い(2つ)

  • 想起練習 — 教材を見ずに思い出す。自作の小テスト、フラッシュカード、白紙に書き出す。 テスト効果の研究群がそのまま根拠になる
  • 分散学習 — 同じ総時間を、間をあけて分ける。 分散学習の大規模なメタ分析が支える

効果は中くらい(3つ)

  • 精緻化質問 — 「なぜそうなるのか」を自分に問いながら読む
  • 自己説明 — 解いている最中に、自分の手順を自分に説明する
  • 交互練習 — 種類の違う問題を混ぜて練習する。まとめてやるより見分けがつくようになる

効果が低い(5つ)

  • 要約 — 上手い人には効くが、上手く要約する訓練自体が必要になる
  • 下線・マーカー — ほとんど効かない。むしろ引いた箇所だけに注意が寄る
  • キーワード連想法 — 覚える対象が限られ、忘れるのも速い
  • 文章のイメージ化 — 適用できる教材が狭い
  • 再読 — 効果が小さいわりに時間を食う

著者たちが繰り返し指摘しているのは、下線と再読が学生の使用率で上位だという点だ。 最もよく使われている2つが、最も証拠の乏しい2つと一致している。

理由も示唆されている。効く方法は、やっている最中がつらい。 思い出そうとして出てこない時間は不快だし、間をあけると前回の内容を忘れかけている。 一方、再読は滑らかに進み、下線を引いたページは「やった」形が残る。 手応えと定着が逆を向いていることが、 そのまま選択の誤りになっている。

だから、どう生きるか

やることは3つに絞れる。

1つ目。マーカーを置き、白紙を出す。 下線を引く時間を、そのまま「何も見ずに書き出す」時間に置き換える。 1章読んだら本を閉じ、何が書いてあったかを白紙に書く。書けなかった箇所だけ読み返す。 これで想起練習と、復習範囲の絞り込みが同時に片付く。

2つ目。同じ日に繰り返さない。 1回で完全に覚えようとしない。7割の状態で切り上げ、翌日と数日後にもう一度触る。 間隔の目安は覚えていたい期間の1〜2割だ。 半年後の試験なら数週間おきになる。

3つ目。問題を混ぜる。 同じ型の問題を10問続けると、解き方を選ぶ練習にならない。 型を混ぜると、その場の出来は落ちる。落ちるが、後の成績は上がる。 練習中の出来と、本番の出来は別物だという点は、この総説の核心のひとつだ。

そして評価の仕方を変える。進み具合を「読んだページ数」や「勉強時間」で測るのをやめ、 何も見ずに説明できた項目の数で測る。 指標を替えれば、やることは自然にそちらへ寄る。

なお「効果が低い」は「やってはいけない」ではない。 要約も自己説明も、上手くなれば効く。ただし訓練が要るぶん、 初手として勧められるものではない、というのがこの格付けの意味だ。

ここからは僕の飛躍だ

ここからは僕の解釈だ。この論文がいちばん効くのは、勉強法を増やすときではなく捨てるときだと思う。 新しい方法を足すのは楽しいが、時間は増えない。 下線と再読に使っていた時間を、そのまま想起と分散に移すだけで、 やることは増えないのに結果が変わる。引き算のほうが効く珍しい領域だ。

AIとの関係でいうと、この格付けは少し不穏な読み方もできる。 要約はいまや一瞬で手に入る。だが要約は効果が低いほうの群にいる。 自分で要約する労力が効いていたのだとすれば、それを外注した瞬間に効果は消える。 逆に想起練習は、AIに任せようがない。 思い出す動作そのものが定着を作っているので、代わりに思い出してもらっても意味がない。 道具が便利になるほど、残る工程のほうが痩せやすいという構図がここにある。

研究の限界も書いておく。これは新しい実験ではなく、既存研究の格付けだ。 だから元の研究群の質をそのまま引き継いでいる。 評価は主に短期〜中期の実験室研究に基づいていて、 数年単位の学習成果を直接測ったものは少ない。 また「低」に分類された方法も、条件が揃えば効く可能性は残っている。 格付けは「証拠がどれだけあるか」の順位であって、「効果がゼロか」の順位ではない。 そこは混同しないほうがいい。

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