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科学的に正しい勉強法
記憶に残る学び方と、残らない学び方
勉強法の話は俗説が多い。ここでは、追試に耐えている論文が支持しているものだけを並べる。結論を先に言えば、読み返す時間を思い出す時間に替え、間をあけ、最後に寝ることだ。
この記事で扱う論文 11 本
勉強法についての助言は、たいてい誰かの成功体験でできている。それが悪いわけではないが、 再現するかどうかは別の話だ。ここでは、実験で効果が測られ、しかも別のグループが追試しても だいたい同じ結果になっているものだけを扱う。
先に結論を書く。読み返す時間を、思い出す時間に替える。間をあける。作業台に載せすぎない。 最後に寝る。 派手さは無いが、これがいまのところ最も確からしい。
まず、格付けを見る
個々の話に入る前に、全体の地図がある。 勉強法10個を証拠で格付けした総説は、 主要な学習法を高・中・低の3段階に分類した。
- 高: 想起練習、分散学習——この2つだけ
- 中: 精緻化質問、自己説明、交互練習
- 低: 要約、下線・マーカー、キーワード連想法、イメージ化、再読
そして著者たちが強調しているのは、 学生の使用率で上位に来る下線と再読が、証拠では最下位だという点だ。 以下の節は、この格付けの「高」と「中」を一つずつ開いていく話になる。
読み返しは、ほとんど効いていない
多くの人が最初にやるのが「教科書をもう一周する」だ。これがほぼ効かないというのが、 テスト効果の研究がくり返し示してきたことだ。 同じ時間を使うなら、読み返すより、本を閉じて思い出したほうが後に残る。 しかも厄介なことに、読み返した人のほうが「覚えた感じ」は強い。手応えと定着が逆を向いている。
なぜ手応えが当てにならないのか。説明深度の錯覚が その正体をよく説明している。人は、見慣れたものを「分かっている」と感じる。 ところが「では説明してみて」と言われた瞬間、その理解はあっけなく崩れる。 見慣れることと、使えることは違う。
だから、勉強の進み具合を「読んだページ数」で測るのをやめる。 何も見ずに説明できた項目の数で測る。指標を替えるだけで、やることは自然に変わる。
間をあけたほうが、同じ時間でも残る
まとめてやるか、分けてやるか。総時間が同じなら分けたほうが残る、というのが 分散学習の結論だ。しかも「どれくらいあけるか」には 目安がある。いつまで覚えていたいかの、だいたい1〜2割だ。 1週間後の試験なら1日おき、半年後にも残したいなら数週間おきになる。
前日の詰め込みは、翌日の試験には効く。効くが、そこで終わる。 どちらを狙っているのかを、自分ではっきりさせておいたほうがいい。
覚えるときに「何を考えていたか」で決まる
同じ回数触れても、残り方は違う。分かれ目は、そのとき何を考えていたかだ。 処理水準説は、見た目や音をなぞっただけの 情報は消え、意味を考えた情報は残ると示した。マーカーを引く手は動いていても、 頭が意味に触れていなければ、線を引いた事実しか残らない。
意味に触れる一番安上がりな方法は、自分に問いを立てることだ。 「これは何のための概念か」「これが無かったら何が困るか」「自分の経験でいうと何にあたるか」。 どれか一つに答えられたなら、その情報は意味として処理されている。
思い出す場面を、覚える場面に混ぜておく
符号化特定性原理は、 記憶が「中身」だけでなく「そのとき一緒にあった手がかり」ごと保存されることを示した。 覚えたときと思い出すときの状況が近いほど、出てきやすい。
実務的な含意は単純だ。本番に近い形で覚える。 英語を話すために覚えるなら、黙読ではなく声に出す。試験のためなら、過去問の形式で解く。 仕事で使うなら、実際の資料の形で書いてみる。 「覚える」と「使う」を別々の作業にしないほうがいい。
作業台は、思っているより小さい
一度に扱える情報の量には天井がある。マジカルナンバー7が 最初にその天井を数字にし、ワーキングメモリの研究が その内訳を明らかにした。天井は、頑張っても上がらない。
上がらないなら、載せるものを減らすしかない。それを学習設計の言葉にしたのが 認知負荷理論だ。難問をいきなり解かせると、 答えを探すことに作業台が埋まり、解けても解き方が残らない。 初学のうちは、完成した解答例を読んで「なぜこの手を選んだか」を追うほうが速い。
自分の勉強に落とすなら、こうなる。新しい分野に入るときは、いきなり演習から始めない。 良い解答例を数本、手順の理由まで追う。手が動くようになってから、自力で解く量を増やす。
「量をこなす」だけでは、ある所で止まる
限界的練習は、しばしば「1万時間やれば一流」と 要約されるが、元の論文はそんなことを言っていない。効いていたのは時間ではなく、 まだできないことを狙い、その場で誤りを直すという練習の質だ。 できることを気持ちよく繰り返しても、そこは伸びない。
つまり、勉強時間の記録はほとんど意味を持たない。記録するなら 「今日どこで詰まって、それをどう直したか」のほうだ。
最後は、寝る
睡眠と記憶の固定化の研究は、 記憶が寝ている間に選別され、必要なものだけが長期の側へ移されることを示している。 選別の基準には「あとで使うと分かっているか」も含まれる。 勉強のあと徹夜すると、その日の学習は選別の機会そのものを失う。
「寝る前に見直して、寝る」は、精神論ではなく手順として理にかなっている。
明日からの手順
- 教材を読んだら、本を閉じて白紙に思い出す。読み返すのはそのあとにする
- 進み具合は、読んだ量ではなく何も見ずに説明できた項目の数で測る
- 復習の間隔は、覚えていたい期間の1〜2割であける
- 覚えるときは、本番と同じ形でやる(声に出す・書く・解く)
- 新しい分野は解答例から入り、手が動いてから演習量を増やす
- 記録するのは時間ではなく、詰まった場所とその直し方
- 最後に見直して、寝る
AIに要約させれば、教材を読む時間は削れる。削れるが、 思い出す工程は代わりにやってもらえない。 要約が上手くなるほど「分かった感じ」だけが増えるので、 説明してみる工程を意識的に足す必要が出てくる。ここは省けない。
この記事で扱った論文
それぞれ独立した紹介記事がある。気になったものから読める。
勉強法10個を効果で格付けしたら、人気のあるものが下位だった
主要な勉強法10個を証拠で格付けした。効果が高いのは想起練習と分散学習の2つだけで、学生に人気の下線引きと再読は最下位だった。
読み返すのは、ほとんど無駄だった
覚えたいなら読み返すな、思い出せ。しかも本人には、効いていない感じがする。
「分かっている」つもりのほとんどは、説明してみると崩れる
仕組みを説明しようとした瞬間、「分かっている」感覚は崩れる。馴染みを、理解と取り違えている。
同じ時間なら、まとめてやるより間をあけたほうが残る
学習の総量が同じでも、間隔をあけて分けたほうが長く残る。一夜漬けは、最も損なやり方だ。
意味を考えたものは残り、見た目をなぞっただけのものは消える
記憶に残るかどうかは、時間や反復より「どれだけ深く意味を処理したか」で決まる。
覚えたときと同じ手がかりがあると、思い出せる
記憶は、覚えたときの文脈と一緒に蓄えられる。思い出せるかは、その文脈が再現されるかで決まる。
人が一度に扱えるのは、せいぜい7個前後
一度に頭に保てる塊は7個前後。だが、何を1個と数えるかは、まとめ方で変えられる。
頭の中の作業台は、思っているより小さい
意識して同時に扱える情報の量には、はっきりした上限がある。そこが人間の一番狭いところだ。
問題が解けても、解き方は学べていないことがある
ゴールに向かって解くやり方は、作業記憶を使い切ってしまい、肝心の「型」を学ぶ余力を奪う。解くことと、学ぶことは別物だ。
「1万時間」の元の論文は、そんなことを言っていない
熟達を分けるのは練習の「量」ではなく「質」。ただし、練習で説明できる差は、思われているより小さい。
記憶は、寝ている間に「選ばれて」残る
睡眠は記憶を保存する時間ではない。何を残すかを選別し、作り直す時間である。
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