脳と心理と、その使い方

初期設定を変えるだけで、臓器提供者が激増する

デフォルト効果とナッジ

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一言でいうと

臓器提供の意思表示で、「参加するには手続きが要る(初期設定は不参加)」国では、提供同意率が十数%。「脱退するには手続きが要る(初期設定は参加)」国では、90%を超える。同じ人間なのに、初期設定がどちらかで、結果が正反対になる。人は、放っておかれる選択肢を、そのまま受け入れる。

論文が実際に言っていること

ヨーロッパ各国の臓器提供の同意率を比べた、短いが影響力の大きい論文だ。国によって、同意率が極端に違った。ドイツやデンマークは十数%、オーストリアやフランス、ベルギーは99%前後。文化や信条の違いでは、この差は説明できない。隣接する似た国どうしでも、大きく分かれた。

決め手は、制度の初期設定(デフォルト)だった。

オプトイン」の国では、初期設定が「提供しない」で、提供したい人は、自分から手続きをして参加する。「オプトアウト」の国では、初期設定が「提供する」で、提供したくない人が、自分から手続きをして脱退する。どちらも、本人が自由に選べる。手続きも難しくない。違うのは、「何もしなければどうなるか」だけだ。

その「だけ」が、決定的だった。オプトインの国では同意率が低く、オプトアウトの国では極端に高い。人は、初期設定を、めったに変えない。著者らはさらに、オンライン実験でも同じ効果を再現した。同じ質問でも、初期設定をどちらにするかで、選ばれる割合が大きく動いた。

なぜか。初期設定を変えるには、手間がかかる。決断を先送りしたくなる。そして「初期設定は、推奨されている選択肢だろう」という暗黙の受け取りも働く。結果として、放置される選択肢が、実質の答えになる。

だから、どう生きるか

自分の生活の「初期設定」を、意図的に設計する。

これがこの研究の実用的な芯だ。人は、初期設定をめったに変えない。ということは、自分の環境の初期設定を、望ましい方向にしておけば、意志の力に頼らず、良い選択が「放っておいても」選ばれる。健康的な食べ物を目につく場所に置く(初期設定を健康側に)、スマホの通知を最初からオフにしておく、自動で貯金される仕組みにする。決断のたびに頑張るのではなく、初期設定を一度整える。これは、誘惑は意志でなく環境で断つという方向の、最も強力な形だ。

「何もしないと何が起きるか」を、常に確認する。

多くのサービスやアプリは、こちらが何もしなければ、向こうに都合のよい初期設定になっている。自動更新、データ共有のオン、通知の全許可。放置は、中立ではない。放っておくことは、初期設定に同意することだ。だから、新しく何かを使い始めるとき、「何もしなければどうなるか」を一度確認し、望まない初期設定は変える。

AIやアプリの初期設定は、こちらの選択を静かに決めている。

いまの文脈では、ここが重い。AIツールやアプリの初期設定——どんな提案を優先するか、何を共有するか、どう振る舞うか——は、こちらが意識して変えない限り、そのまま選択になる。設計者が置いた初期設定が、あなたの「実質の答え」になる。だから、便利さのために初期設定を放置し続けると、選択の多くを、他人の設計に委ねることになる。重要な初期設定は、自分で握り直す。

ここからは僕の飛躍だ

この研究が扱ったのは、臓器提供という特定の、感情的にも重い決定だ。初期設定の効果はさまざまな場面で確認されているが、その大きさは、決定の重要性や、選択のしやすさによって変わる。「初期設定がすべてを決める」と単純化するのは行き過ぎだ。臓器提供の同意率を、そのまま実際の提供数と同一視することにも注意が要る。

「自分の初期設定を設計せよ」は、この知見から僕が引いた実践で、2003年のこの論文が生活術として述べていることではない。

それでも、初期設定が人の選択を強く左右する、放置される選択肢が実質の答えになる、という中核は、実生活と制度設計の両方に効く。自分の環境の初期設定を意図的に整え、他人の設計した初期設定を点検すること。それがこの一本の使いどころだと思う。

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